鍼灸治療とは


 鍼灸院では、患者さんが来院されたら、最初にその症状、痛みの具合、部位、経過、原因その他をお聞きした後、この医学独特の手順にしたがって触診その他、脈診、聴診等の検査をさせていただきます。

さらに、科学的見地から法的に実施可能な西洋医学的検査をも併用して誤診の無いように注意しています。

鍼灸には、古来より診断、治療等について、いろいろな流儀がありますので各鍼灸師の自信の有る方法で行います。

鍼
お灸

 

■ 鍼灸の歴史


 鍼灸は、一般に「はり・きゅう」または「しんきゅう」と呼ばれています。東洋医学或いは漢方医学の一分野として中国に起源をもつ我が国の伝統的医療であります。鍼灸は金属の細い針を経穴(ツボ)に刺入し、或いは艾(もぐさ)を燃焼させて経穴(ツボ)に刺激を加え病気を治そうとする施術です。鍼灸医学は、日本には6世紀の初め飛鳥時代に仏教の伝来より11年遅く、また漢方薬より先に渡来したと云われています。古代の中国で揚子江流域やその南方の地質が豊かでさまざまな植物が茂った所ではその根・皮・木・草等を採集して煎じて飲む薬としての療法が発達したとされています。一方、黄河流域は土地が痩せて植物の種類も少なく生育も悪い地方では、煎じ薬に頼りがたく経験的に針灸療法が発達したものと思われます。この2つの医学は、中国の漢の時代にひとつに集大成されましたので今日では、漢方医学と呼ばれています。

 

 さて、鍼灸医学は、我が国に渡来して以来明治時代の初期までの長い間、漢方薬と共に医学の主流として広く人々に活用されてまいりましたが、幕末のオランダ医学(西洋医学)の伝来によって次第に衰退を余儀なくされてきました。その後、明治政府の欧米化政策により1874年、日本の医学を西洋医学とする立法が制定され医学の主流を西洋医学に明け渡すこととなりました。何故このようになったのか、欧米化政策がひとつの理由ですが、その他として東洋医学は内因性の病気には、その特徴を生かし治療効果もそれなりに評価されてきましたが外因性のもの(外傷)にたいしては効果が遅いことが挙げられます。特に、戦場などで受けた外傷に対しては、西洋医学の外科の方がはるかに役立ちましたから東洋医学が軽視されたとも云われています。しかし、最近では、公的な医学研究所・医科大学・鍼灸大学や鍼灸短期大学・医療機関等で科学的な各種の実験、研究がされて少しづつ鍼灸医学の効果が証明されてきましたので、日本をはじめとして米国やヨーロッパ各国でも鍼灸が盛んになってきました。

 

■ 鍼灸・針治療に適した症状と効果


   針治療では、痛みに対する効果が高く評価されています。針の刺激によって分泌されるモルヒネのような役割をもったホルモンが、痛みを抑える効果があり、また痛みを脳に伝える神経をブロックする働きがあるため、痛みの緩和に有効なのです。

 

 また、リラックス効果のあるセロトニンなどのホルモンも分泌されるため、自律神経のバランスが整い、交感神経と副交感神経の働きがスムーズに行なわれ、ストレス性の症状に効果があります。さらに自律神経は、胃腸などの内臓や血圧もコントロールしているので、自律神経のバランスが整うことによって、内臓機能のバランス回復に役立ちます。

 

 筋肉のコリやハリにも効果があります。針を刺入すると、血液やリンパの流れが良くなるので、固くなっていた筋肉の緊張がほぐれて柔らかくなり、コリやハリが緩和されるのです。

 

 また、あまり知られていませんが、針治療は美肌にも効果があります。針で傷つけられた細胞は修復しようと増殖します。それが細胞の活性化に繋がり、コラーゲン繊維を強くします。

 

 そのため肌の弾力が高まり、シワやたるみの予防に繋がるのです。また、血流が促進されくすみを改善、筋肉の刺激によるリフトアップ効果など、さまざまな美肌効果が期待できます。

 

 また、古来より認められている鎮痛効果の解明も次のような諸説があります。

 

1.ゲートコントロール…針刺激が脊髄において痛みを抑制する。

2.エンドルフィン…針刺激がモルヒネ様鎮痛物質の遊離を促し痛みを抑制する。

3.末梢神経の遮断効果…針刺激が末梢神経の痛みのインパルスを遮断する。

4.経穴(ツボ)の針刺激による痛覚閾値の上昇による鎮痛効果。

 

5.血液循環の改善…筋肉の緊張をゆるめ血行状態を良くする。

 

■「鍼」と「灸」の治療効果の違い


 針治療はすぐに効果が現れる傾向にあり、灸治療は慢性的な症状に対して、比較的ゆっくりと継続的に改善させる傾向があります。ですが、針治療も慢性的な症状に効果があることも多く、また灸でもすぐに効き目が現れることもあります。

 

 ですから、この症状には針治療、こちらの症状には灸治療と一概に決めつけることは難しいのです。針治療と灸治療は、治療を受ける人の疾患や症状、体質などを考慮して、有効なツボを選び、その人に合った治療法を行なうことが重要となります。

 

【鍼の施術について】

    きわめて細いステンレス製の鍼(長さ約40mm~80mm、太さ直径0.17mm~0.33mm)を経穴(ツボ)に刺入します。刺入方法は、主に管鍼法と言って円形の金属或いは合成樹脂製の筒を用いて無痛で刺入します。なお、一部では、中国で行われている方法として筒を使わずに鍼を親指と示指でつまみ刺入する方法も行われています。経穴(ツボ)に刺入した鍼は一定の刺激(鍼を上下したり回旋、振動させたりします。)を加え直ぐに抜く方法と10~15分間置いておく場合があります。また、刺入した鍼に、微弱な低周波パルス通電をする場合もあり痛みや筋肉のこり、血液循環の促進に効果があります。

    その他、刺入せずに皮膚に接触させたり押圧させたする方法もあり、小児鍼として乳幼児の夜尿症,夜泣きなどに効果があります。

    なお、鍼の消毒は、現在では、オートクレーブと云う高温高圧式滅菌装置や化学的な方法で安全を期していますし、一回限りで使い捨てのディスポ鍼の急速な普及により感染症の心配は有りませんので安心です。

 

【灸の施術について】

    艾(もぐさ)を用いて経穴(ツボ)に熱刺激を加える方法で一般的に「やいと、お灸」と言われております。その方法は、艾を直接皮膚上に乗せて着火させる直接灸と艾と皮膚の間を空けて行う間接灸とに大別されます。

    直接灸の艾の大きさは糸状,米粒大の細いものから小指大のものまでありますが現在では、あまり熱い刺激を好む人は少なくなりました。施灸後は、皮膚に水泡が出来たり灸痕が残りますので予めご承知置き下さい。

    間接灸は、艾と皮膚の間に空間を作ったり、味噌、薄く切った生姜・にんにくなどの熱の緩衝材を入れて温和な熱さにしておりますので気持ちの良いものです。

    その他に、刺入した鍼の頭(先端)にそら豆大の艾を取り付けて点火する灸頭鍼と云う方法や、熱の刺激源を遠赤外線やレーザーとする科学的な試みも実用化されています。施灸や温灸は、ご自宅でも出来ますので、鍼灸師に指示を受けて下さい。

 

【その他の施術について】

    鍼灸院により、遠赤外線照射、低周波通電、吸い玉、テーピング、予防体操などの指導を行う場合もあります。

 

■ 鍼灸・針治療の副作用


    現代医学に比べると東洋医学は副作用が少ないイメージがありますが、わずかですが副作用は起こります。

 

【瞑眩(めんげん)】

 瞑眩とは、東洋医学の考え方で、治療後一時的に起こる症状の悪化や倦怠感のことです。しかしこの症状を、副作用とは違う好転反応ととらえています。

 

 鍼灸は身体のバランスを整え、自然治癒力をアップさせます。身体は良くなろうとするときに副交感神経が優位になり、心地良いだるさを感じるのです。このような場合は、身体を休めることで回復が早まります。

 

 慢性の腰痛・肩コリなどの場合、鍼灸をした後に痛みが増すことがあります。これも瞑眩で、筋肉が硬くなり血行が悪くなっていたために痛みすらを感じなくなっていたところに、治療によって血行が良くなり、痛みやコリを感じるようになったためです。

 

 また、治療したところと別の場所が痛くなることもあります。これは悪い箇所が数カ所ある場合、すべての痛みを感じることができないためです。

 

 最も強い痛みは感じていても、ほかの箇所の痛みは感じていないため、強い痛みの場所の痛みが緩和されると、2番目に痛い場所に痛みを感じるようになるのです。これは治療が確実に効果が出ている証です。

 

【鍼の副作用】

〇刺入時の痛み

〇針を抜いた後の痛みやかゆみ

〇針の痕が残る

〇微量の出血

〇皮下出血

〇めまい、ふらつき

〇疲労感、倦怠感

〇眠気

〇吐き気

などがありますが、その発生率は非常に低いです。

 また、治療を受けるときの体調によっても副作用が起こることがあります。過度の睡眠不足や極度の疲労、空腹時、飲酒後などに治療を行なった場合、脳貧血や、気分が悪くなることがあるので注意しましょう。

  

 初めて治療を受ける場合に、過度の緊張状態になり、同じような症状が起こることがあります。治療中に気分が悪くなったときは、すぐに申し出て、適切な対処をしてもらいましょう。

 

【灸の副作用】

    灸で起こる副作用には、火傷や灸痕、灸あたりがあります。

 

 火傷・灸痕は、昔ながらの大きなお灸や、皮膚に直接灸を乗せる場合に起こります。最近では、熱くない、痕のつかない方法が主流ですが、火傷や灸痕が心配な人は、施術者に相談し、副作用が起こらないように治療してもらいましょう。

 

 灸あたりとは、一度に多くのお灸をすえた後に起こる、倦怠感や熱っぽさです。数日で快復しますが、無理せず、ゆっくり休みましょう。

 

 そのほか、重症の糖尿病の人、多量のステロイド剤を服用している人、免疫抑制剤を服用中の人などは免疫力が低下しているので、火傷や灸痕には注意した方が良いでしょう。

 

 体質の問題などから起こる副作用は、熟練した施術者であれば、避けることができますが、薬を服用している場合は、避けることが難しいので、初診時に必ず申告しましょう。

 

 鍼灸で副作用が起こることは非常に少ないので、あまり過敏にならずに治療を受けてください。少しでも不安がある場合は、早めに鍼灸師に相談することをオススメします。

 

■ 鍼灸師の資格


    我が国では鍼灸施術をおこなうには、はり師・きゅう師の資格が必要です。

 

 鍼灸師の資格を取るためには、高校・大学を卒業後、まず専門の養成学校を受験します。合格・入学後は、専門的な知識と技術を身につけるため3年以上修学し、国家試験の受験資格を取得、「はり師」「きゅう師」の資格を目指し受験します。

 

 はり師・きゅう師の国家試験は、年に1回、毎年2月に筆記試験が実施されます。はり師ときゅう師で試験科目は分かれていますが、同時に受験する場合には、共通科目は試験が免除されます。

 

 試験に合格したら、免許取得のため交付申請をし、厚生労働大臣発行の免許証が交付されます。これで鍼灸師として施術ができるようになります。鍼灸院・病院などへの勤務、鍼灸院の開業は、この免許証がなければできません。そのため、学問、技術とも一定の水準にあり、安心して鍼灸の施術をお受けする事ができるのです。